大規模な改修工事で、用途や機能を変更し、あるいは性能を向上させる工事をリノベーションといいます。時代の変化にあわせた大掛かりな工事で、リフォームと区別しています。
バブル崩壊後、資源の持続維持の観点からスクラップ・アンド・ビルドの反省の風潮が出てきました。「使い捨て」から「もったいない」への変化です。1993年、ナウハウスに築8年の歯科医院兼住宅(鉄筋コンクリート造2階建て)の増改築の依頼が来ました。増改築は建築の醍醐味がみんなに分かりやすく、私も大好きで楽しく仕事をしていました。
依頼者は、築8年の建物自体には満足していましたが、歯科医院が順調に発展したこと、子供が増えたことから医院、住宅ともにスペースの拡張を考えることになりました。当初、別敷地に住宅を建て、この建物を医院だけに改築することを考えました。しかし思うように新しい宅地を入手できず、複合用途のまま増改築することを決心しました。ナウハウスが悪条件の敷地を逆手に取り、建築の魅力を引き出していることに関心を持っての依頼でした。
依頼者は、元の設計者を含め、何人かの設計者に相談しました。現況の建蔽率60%ぎりぎりで増築が難しいこと、築8年しか経っていなかったこと、「冷やかしと思われている」(施主)ところもあったそうです。「いっそ解体して立て替えたほうがいいのでは」(施主)という迷いもありました。
ナウハウスの判断は以下のとおりです。同じ予算なら、新築するより既存躯体を生かした増改築のほうが有利と考えます。増改築という与件も敷地条件の一つと捉えれば、設計で新たなデザインの切口が見つけられることもあり、難しい条件だが、成功すればメリットはかなり大きいと考えました。
既存建物はRC造のラーメン構造で、3スパンの単純な構造フレームでした。敷地が軟弱地盤で、16mのPHC杭で支持されまだ余力がありました。新築した場合、新たな杭工事は既存杭と絡んで、困難な施工になると思いました。これらを考えると、建蔽率さえクリアーできれば、増改築は可能であると考えました。
それを解決する名案が閃きました。3スパンのラーメンの中の診察室をパティオとする「減築」です。光庭を建物の中に抱くことによって、都市の中に住環境を見つけることができます。そして光庭で切り取ったボリュームを全面道路側に増築し、余裕のある容積率を使って、3階を軽い鉄骨造で増築するという提案です。
できる限り既存躯体を生かし、正面以外の3面の外壁や開口部もそのまま再利用しました。上部躯体ばかりでなく、杭工事を軽減できたこともコストメリットが大きいと思います。内部は仕上げや設備は全く新築同様です。工事費の軽減と近隣対策、あるいは時間の短縮で、幸福の「アフター」は実りあるものになりました。
木造の在来工法では構造まで関わるリフォームはよくありましたが。当時、鉄筋コンクリート造で既存を換骨奪胎するリノベーションは珍しかったと思います。20年前の話です。その後2004年に、富士市の「OFとBYとFORの家」で鉄筋コンクリート造のリノベーションを行いました。このとき、ダブルウォールとして断熱性を増し、そこに配管スペースを設けるなどリノベーションの新たなメリットを発見しました。増改築のハンディは全く感じさせないものと自負しています。なぜなら、竣工写真を撮ったベテランの建築カメラマンは、増改築であるとことを明かすまで、全くそれに気づかず撮影をしていたのです。
(歯科医院兼住宅の増改築は「住宅再生の経済学」の特集で、日経アーキテクチュア1996年4月22号に詳細に紹介されています)