そろそろ冬支度ということで、薪割りをしました。なに?と驚かれるでしょうが、ナウハウスでは冬の暖房はほとんど薪ストーブでまかないます。これは2003年にナウハウスのアトリエを地階に移して以来、毎年続けていることです。ファンヒータ―のお世話になるのは余程寒い時だけです。竣工後24年を経て、コンクリートが乾いて蓄熱するためか、毎日、数時間だけ薪ストーブを焚きますと、それだけでけっこう過ごせるのです。
(薪ストーブ)
1985年のナウハウスの竣工時、世はボタンひとつで空調することがあたりまえになろうとしていました。当時も現在のように、家具製作所や大工は端材の処分に困り、焚き物としてそれをいくらでも手に入れることができました。しかしすでに薪でお風呂を沸かす時代ではありませんでした。時代に逆行する気持ちはありませんが、焚き火をする楽しみは捨てがたいものがありました。焚き物がタダで手に入るばかりか、処分に困る端材を有効利用できることに大きな喜びを覚えていました。私が流行やブームには少し距離を置こうとしたり、みんながそっぽを向いているものに関心を持つという性癖もあって、何かを待って行列に並んだり、混雑したデパートや渋滞している交差点は真っ平ごめんというところはあります。また焚き火の炎を見るのが結構好きなのかもしれません。しかしエアコンで電気を消費するより、薪ストーブのほうがエコとさえ言われるようになる時代が来るとは夢にも思いませんでした。
薪割りの話に戻ります。大発見があったのです。今日、大工さんがトラックいっぱいの梁や柱の端材を持ってきてくれました。まずナウハウスの中庭にそれらの端材をみんなで運びました。それから私が薪割りを始めました。そこへ一匹の蚊が耳元にブーンとやってきたことに気付きました。秋も深まり、ほとんど蚊も見なくなっていました。蚊が本能で後ろから刺しにくるというのは知っていて、蚊もなかなか考えてるとは思っていました。ブーンといわなければ完璧なのに、とも思っていました。薪割りをやめ、アースジェットを取り、チャンスを狙いました。ところが蚊はどこかに行ってしまったようです。薪割りを再開することにしました。しばらくしますとまた耳元でブーンと音がして、蚊が目の前に現れたのです。すぐにアースジェットを手に取り、じっとして蚊の来るのを待つのですが、またどこかへ行ってしまったようです。これを何回か繰り返し、とうとう蚊をしとめることはできませんでした。
後片付けも終わり、アトリエに戻りました。なにか左手の甲がかゆいのです。見るとそこがぷくんと腫れています。やられたと思いました。はたして、あの蚊は私が薪割りをしているときだけ私を刺そうとし、アースジェットを手に取ってじっとしているときは攻撃しようとしなかったにちがいないのです。穿ちすぎた見方だと思われるかもしれませんが、薪割りをやめアースジェットを構えることを3度繰り返し、いずれも蚊が姿を見せなかったことを考えると、蚊がすべてを判断していたとしか思えないのです。
凄い蚊!だと、心から感心しました。こんな賢い蚊に出会ったのははじめてです。虫けらといって侮れず、の思いしきりで、秋深まってもなお蚊が生きて残っているのはそれだけの生き延びる知恵あってのことと思うのです。凄い蚊の話、いい話でしょう?