ナウハウスの中庭に還暦を過ぎた白梅がある。今年は殊に見事に咲いた。7年前、亡くなった父が「たくさん生ったなあ」と呟くほど実がついた。「蛇がいる」と突然父が言った。凝視するが蛇などいない。そもそもこんな街中にいるはずがない。枝が蛇に見えたのだとそれ以上気に留めなかった。
ところが蛇が出たのである。昨年の6月のサンルーム工事中、水盤のメダカを覗いていた時である。違和感がして見上げると、異形なものが梅の枝に体を強ばらせている。黙って指差すと家人はのけぞった。1.3mくらいのシマヘビ。なぜ、どうやってと頭が錯綜した。
庭に白テーブルの石皿は雀の餌場である。もしや枝に止まる雀を狙ったのか。確かに雀は大騒ぎであった。その日は放置したが翌日も動く気配はない。そういえば一昨日玄関先で大きな蛇がクルマに轢かれていた。「気の毒に、なぜ?」と思ったが、まさか庭にもう一匹いるとは思わない。あの2匹はつがいだったのか。不幸にして一匹は轢かれ、他方は雀を待ち伏せしている。命がけの狩りだから簡単に去るわけもない。
蛇は縁起がいいものとされているが放置しておくわけにいかない。数人がかりで胴を突き首を引いた。よほど腹を空かせているのか痩せぎすの体がちぎれそうであった。やっと2重袋に入れ、国道を越え300m先の川に放した。遠くの雀がどうして分かるのか謎のままである。かつて父が見たのは本当に蛇だったのかもしれない。