イチローが9年連続の200本安打を達成しました。1901年のキ-ラーの記録を108年ぶりに更新して、ようやく期待への重圧から開放されてホッとしたとイチローは言っています。WBCのイチローのセンター前のヒットにも喝采しましたが、彼の孤軍奮闘の姿に心を打たれるものがあります。
イチローの才能ゆえの偉業でありますが、不断の努力や勤勉性といった日本人的美徳が天才イチローを育てたともいえます。つねに努力、研究を怠らず、最高の状態を保とうとしていることには頭が下がります。イチローの最大の才能である瞬発力とスピードは、彼のすべての偉業の礎になっています。
イチローは才能を生かすため、日常のルーティンワークをきっちりと行っていました。毎日の朝食で奥さん手作りの野菜カレーを食べることから、試合前のウォーミングアップ、バッターボックスへの入り方まで、型をきっちり決めて、淡々と繰り返す姿を見て、古武道の「型」、あるいは現代美術を見るような感動を覚えました。
たとえば居合術の世界では、「ワザを疑わず、試さず、型を淡々と稽古せよ」とされ、いざその時には、稽古で身に付いたワザで自然に斬れるから、疑わず試すなと教えられています。また現代美術の価値は、作品を前にして人々がその意味を考えようとする、その分からなさにあると思います。それは多様な解釈を許す自由であり、見る人の感度が勝れば、無限に奥行きを増していく可能性があります。
私はイチローの「型」の認識のしかたに、自分の人生観を揺さぶられる思いがしました。それは、夢があってそれに近づくためには、自分が決めた毎日のルーティンワークを実行していくだけでいいのだとイチローは教えてくれていることに気付いたからです。思いがあれば誰でも始められることです。夢が奇跡的なことだとしても、そこに確率論など考える必要はなく、企画したことを実行していくだけで人生が開かれていくことは確かです。ただしどのようにルーティンワークを設定するのは自由で、その人のセンスであり能力そのものです。
経済性を追求するあまり、人々が日々の生活で忘れてしまったものがイチローや現代美術、名建築の中にたくさん詰まっています。私の夢はいい建築を設計することですから、それに繋がることはどんどん実行していこうと思います。これからの10年、建築設計のための健康を持続させるため、早朝の3kmの散歩を実行することから始めることにしました。けさ、そんなことを考えて散歩していましたが、家の近くの小道を曲がった途端、大きく顔を出したお日様に出くわし、柄にも無く合掌してしまいました。
イチローはボール球までミートし、ヒットをグラウンドに満遍なく散らばせ、天性の瞬発力とスピードで200本安打を達成しました。私にそれを真似る才能はありませんが、夢を持って毎日のルーティンワークを始めることは可能です。それを実行することで、効果はまず体調に表れ、体形に伝わり、風通しのいいすっきりした頭で生きられるという大きな副産物を得られることは間違いの無いことだと思うのです。