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隙屋
温暖な浜名湖の環境なら「隙間だらけの納屋」でも住めるのではないかというのがこの家の出発点である。環境を生かして湖岸の景観をつくり、簡素だが豊かさをしみじみと感じられる住まいである。時代に逆行するが、設備よりも建築、建築よりも人間の感性に重きをおいた。感性は至れり尽くせりでは磨かれないものと考え、自然との間に強い境界を作らず、最小限のしつらえでイニシャルコストを抑えた。一律的で重装備な高気密高断熱の家とせず、究極のエコの家とした。
外壁は黒く塗装した杉板を目透かしで張り、高耐候性ポリカーボネートをビス止めした。耐用年数が過ぎれば簡単に取り替えられる。構造は木造軸組の二階建てで、地場の天竜杉を用いた。冬季には隙間からの日照を内部に蓄熱させ、夏季には上部の連窓を遠隔操作で開放し湖面を渡る涼風を引き入れる。冬季を過ごしたが十分暖かかった。屋根は離瓦を使って瓦下の通気を図り、屋根面の温度を下げた。伝統の瓦技術を見直し、現代に生きる新機能とデザイン性を得た。
崖地の構造物の滑り止めの地階は外断熱のRC造で、海へ開くトンネルから採光と通風と眺望がある。感動的なのは視覚だけでなくトンネルから潮騒や潮の香りが聴覚や嗅覚を刺激することである。暖炉の熱は地階のコンクリートに蓄熱し上階に放熱される。
この家にはよく人が集まる。会話が弾み、感情の高まりがうかがわれる。なんの示し合わせも無いのにコミュニケーションがショートし、空間が蝕媒として機能している。「隙屋」は時間の経過と共に光が変わる。夜が明けると朝日に目を覚まされる。夜は暮らしの光が建築の原型を浮かび上がらせ、今まで経験したことのない空間へ飛躍する。しかしどこか懐かしいのは、もともとが「隙間だらけの納屋」からの発想であるからである。